複雑な地盤形状を見抜けなかった──。複数の杭が支持層に到達しておらず、最大14cm沈下した静岡県掛川市の商業施設で、問題の原因が判明した。設計・施工者の大和ハウス工業が日経クロステックの取材に対し、局所的に存在していた支持層と同質の薄い地盤を誤って支持層と見なして杭を設計していたと明らかにした。
問題があった施設は、23年5月に開業した「ミソラタウン掛川」だ。A~Dの4棟から成り、総延べ面積は約8950m2。このうち、鉄骨造2階建て、延べ面積約5540m2のA棟の南東部で沈下が発生した。調査の結果、複数の杭が支持層に到達していないことが判明し、24年11月以降、使用を停止していた。
建て主のフジ都市開発は25年7月10日、土地と建物、施設の運営事業を大和ハウス工業に売却した。売却額は非公表だ。大和ハウス工業はA棟を平屋に建て替え、27年春の営業再開を目指す。B~D棟は、杭の施工状況などから安全性に問題がないとして、継続使用する。
フジ都市開発は日経クロステックの取材に対し「地域やテナントから再建の要望が多くあった。早期再建のために、商業施設の運営ノウハウを持つ大和ハウス工業に売却することが効率的と判断した」と回答した。
A棟の設計や工事監理、施工管理は大和ハウス工業が担当。杭工事はマナック(愛知県清須市)が手掛けた。 プレボーリング根固め工法の一種であるHiFB(ハイエフビー)工法を採用していた。掘削後に根固め液や杭周固定液を注入した後、既製コンクリート杭を建て込む一般的な工法だ。
大和ハウス工業によると、全72本の既製コンクリート杭のうち、建物の南東部で少なくとも5本が支持層に2~8m到達していなかった。これにより、5カ所で10cm超の沈下が発生。最大で14.6cm沈んでいた。
積分トルク値の波形や付着した土などで到達を判断
大和ハウス工業は施設の設計に当たって、ミソラタウン掛川の敷地全体のうち4カ所で標準貫入試験を実施し、支持層となる砂れき層や砂岩泥岩互層を確認。さらに、A棟直下の5カ所でラムサウンディング試験を行い、A棟周辺の支持層は深さ7~12mに傾斜して存在すると見込んだ。これに基づき、杭長を7~12mの6種類で設計した。
施工前には支持層に傾斜があることをマナックと共有し、もし設計図書で示した掘削長に到達しても積分トルク値の変位などが見られず、支持層への到達が確認できなかった場合は、工事管理者や構造担当者に報告するように伝えていた。
しかし、マナックからそうした報告はなかった。施工後にマナックから受領した杭ごとの掘削深さや杭天端の高さなどを示す施工データにも問題はなく、設計図書通りに施工されていたという。ところが実際は、複数の杭が支持層に到達していなかった。
大和ハウス工業は何を根拠に杭が支持層に到達したと判断したのか。同社は、支持層に到達するまでの積分トルク値の波形が、地盤調査で得られた支持層のN値の波形と近似したことや、掘削オーガに支持層と同質の土が付着していたこと、到達時に杭打ち機の振動を確認したことなどを踏まえ、支持層への到達を総合的に判断したと説明する。
(2025/9/1 日経XTECH)