「新設住宅着工戸数は間違いなく減少するでしょうね」。建築物省エネ法と建築基準法の「脱炭素大改正」が2025年4月に迫る中、ある業界団体幹部からは諦めに似た声が漏れた。
この幹部は、24年12月に開催された国土交通省の「改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に関する連絡会議」での議論にがっかりしていた。「周知活動の開催実績を報告するばかり。本当に審査体制が整っているのだろうか。課題は山積している。にもかかわらず、十分に議論されなかった」
2024年12月16日に東京都千代田区の東京ガーデンテラス紀尾井町で「改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に関する連絡会議」が開かれた。関係団体の幹部たちが一堂に会し、各団体による脱炭素大改正の周知活動などについて、成果報告をした(写真:日経クロステック)
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この幹部に限らず、脱炭素大改正によって、建築物エネルギー消費性能適合性判定(省エネ適判)や構造審査の現場が混乱し、着工戸数の落ち込みにつながるのを懸念する業界関係者は多い。
前年同期比43.3%減「建基法不況」のトラウマ
業界関係者の脳裏をよぎるのは、07年のいわゆる「建基法不況」だ。05年の構造計算書偽造事件(耐震偽装問題)がきっかけとなり、07年6月に改正建基法が施行。建築確認手続きを大幅に厳格化した。
その結果、確認検査機関が審査に要する時間が激増。建築確認が滞り、07年8月の新設住宅着工戸数が前年同期比で43.3%も落ち込む事態を招いた。年間で見ても、07年度の着工戸数は前年度比19.4%減と低調だった。この出来事は、多くの業界関係者のトラウマとして残っている。