住宅事業を手掛けるポラスグループ(埼玉県越谷市)は2020年にグループの社員が自殺した事案について、柏労働基準監督署から「カスハラ」などを原因とする労働災害として認定を受けていたことを24年7月25日に明らかにした。新聞報道などを受けて発表した。カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、顧客からの著しい迷惑行為を指す。自殺とカスハラの因果関係を認める労災認定は異例だ。
自殺した社員は19年4月にポラスに入社し、関連会社で注文住宅販売の営業を担当していた。社会人2年目の20年8月30日、社員寮で亡くなった。両親が22年2月に柏労働基準監督署に労災申請し、23年10月にカスハラなどによる労働災害として認定を受けた。
社員は1年以上、同一の男性顧客から何度も叱責などを受けていたという。きっかけは、住宅の新築中に、「追加費用が必要になった」と説明したことだった。委託業者が汚した隣家の外壁を清掃するよう指示されたり、休日の電話に出られなかったことに対して怒りをぶつけられたりした。当時の上司はこれらの状況を把握しておらず、会社としてもクレームを受けた際の報告体制などのマニュアルを準備できていなかった。
亡くなる直前の20年7月から8月までの期間のカスハラが、特に激しかったという。例えば、工事関係者が現場近くの路上に駐車していた際、近隣住民に迷惑だという趣旨のクレームの電話が、顧客から社員に対してあった。電話では「銭なんか払えねえぞ」「すいませんで済むかおめえ」といったきつい言葉をかけられた。顧客宅を訪ねて謝罪した際も、10分以上も一方的に話を聞かされ、「ばか」などの暴言を浴びせられた。
これらの経緯を踏まえて、柏労働基準監督署は精神障害の労災認定基準にある「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」に当たるとした。両親側の代理人を務める生越照幸弁護士によると「通話記録が認定の決め手の1つになった」という。
ポラスグループは発表資料で、「カスハラなどを理由とする労災認定を会社として真摯に受け止めている。社員全員が安心して働ける職場環境の実現に向けて、再発防止に向けた取り組みを進めていく」などとした。具体的には、カスハラ相談窓口の拡充やカスハラ対策のための管理監督者教育、外部機関と連携したメンタルヘルスケアに取り組む。なお、ポラスグループと遺族の間では和解が成立済みだ。
生越弁護士はこれまでもカスハラに関連した弁護を担当してきた。カスハラ問題について生越弁護士は、「今後、間違いなく増えていくだろう」とし、「特に不動産・建設業界におけるカスハラ問題の対応は難しい」と指摘する。
(2024/9/3 日経XTECH)