長時間の残業は労働者の心身をむしばみ、最悪の場合には命をも奪う。過労死の中でも、精神障害の労災認定数は上昇傾向だ。厳しい工期に加え、建設業の慣習や上司の無理解などが過労死の要因となっている。
過労死問題は残業上限規制の原点だ。15年に大手広告会社の新入社員が長時間労働で自殺したことを受け、過労死に対する関心が急激に高まった。17年3月には、新国立競技場の工事で施工管理をしていた社員が過労で自殺している(資料1)。こうした出来事が世論を動かし、19年の労働基準法改正に至った。
「過労死」は単なる通称ではない。14年に制定された過労死等防止対策推進法によって、法的に位置付けられた言葉だ。「過労で人が死ぬことがあるため、その防止は国の責任だと定めたことを意味する」。労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターの高橋正也センター長はこう説明する。過労死は労働災害だと明確になった
同法で定義する「過労死等」とは、業務による過重な負荷や強い心理的負荷に起因する脳・心臓疾患と精神障害のことだ。死に至らない疾患も、同法の対象となる。
建設業における過労死などの労災保険の支給決定件数は22年度に急増した。脳・心臓疾患は前年度から76%増の30件、精神障害は43%増の53件に上る(資料2)。かつては脳・心臓疾患の方が多かったが、13年度に逆転。10年連続で精神障害の方が多い状態が続く。
建設業で特に深刻なのは、自殺者の多さだ。精神障害で労災認定した件数のうち自殺(未遂を含む)が占める割合は約3割と、他業種と比べて極めて高い(資料3)。