電力や水道といった公共インフラから完全に独立した状態で居住できるオフグリッド建築を、スタートアップ企業が相次いで開発している。過疎地や被災地、開発途上国のインフラに代わる技術としても、注目を集めている。
スタートアップ企業のARTH(アース)(東京都中央区)が開発した、製品価格1億円からのオフグリッド型コンテナ建築「WEAZER(ウェザー)」に、購入依頼が殺到している。2022年11月に製品発表をしてから23年5月上旬までに140基以上の購入依頼がある。依頼主は自治体、大手不動産会社、中小企業、個人など多岐にわたる。
WEAZERの基本モデルを客室に活用した、ARTHの運営する宿泊施設「WEAZER西伊豆」(静岡県伊豆市)も9割近い稼働率だという。
WEAZERの基本モデルは、20フィートコンテナを6台連結した延べ面積約86m2の躯体に、太陽光発電パネル、蓄電池、浄水・貯水設備、住設機器、内外装建材などを施す。工場で設備や内外装をつくり込んだ状態で現地に運び、現場で施工した基礎に据え付ける〔写真1〕。太陽光発電パネルで発電した電気を蓄電池にためて設備を動かすほか、飲み水は雨水をろ過して確保。汚水はトイレを流す中水として再利用している。
もともと既存建築の利活用や観光事業などを手掛けるARTHの高野由之代表が、WEAZERを開発したきっかけは、アフリカのウガンダを訪れたことだ。「頻発する停電や水道水の汚さ、建設工事の大変さなどを目の当たりにして、インフラに頼らずに施工できて暮らせる建築が必要だと思った」(高野代表)
WEAZERの特徴は、設置場所の気象データ20年分を基に、自給生活に必要な電力量と水量をシミュレーションして、それを賄う設備の仕様を決めることにある。WEAZER西伊豆では、発電なしでも約1週間暮らせる蓄電池の容量を確保した。「自給生活を支える最も大事な要素は発電量なので、足りない場合は屋根面積を広げて太陽光発電パネルを増やす」と高野代表は話す。同社は開発したシミュレーションプログラムで、特許を取得している。
ARTHでは依頼主の要望に応じて在来木造建築でオフグリッド化を実装するWEAZERの新たなモデル開発も進める。在来型モデルは、24年春に完成する予定だ。