長年、建設業界で懸念されてきた「技術者不足」。残業上限規制の適用本番を前に、その悪影響が如実に表れ始めた。離職率の増加や人材獲得競争の激化によって、倒産に追い込まれるケースも珍しくない。
「専任の主任技術者を配置すべきなのに、営業所の専任技術者を配置した」「資格要件を満たさない者を専任技術者として配置した」「発注者に提出する技術職員名簿に退職者を記載した」──。国土交通省のネガティブ情報等検索サイトで「技術者関係違反」を検索すると、同様の違反で処分を受けた事例が表示される。2023年1月から24年2月末までに技術者関係違反で処分を受けた建設会社は60社に上った(資料1)。
違反に手を染めてしまう背景に、長年、建設業界で問題視されてきた技術者不足がある。行政処分を受けたある地方建設会社は日経クロステックの取材に対して、「技術者が足りず仕事が回らない。新入社員が入っても教育がうまくいかず、すぐに辞めてしまった。こうした状況を見かねてか、中堅社員の離職も増えた。負のスパイラルに陥っている」と沈んだ声で話す(資料2)。
技術者不足が原因で倒産に至るケースは増加傾向にある。信用調査大手の帝国データバンクの調査によると、23年に人手不足が原因で倒産した企業は過去最多の260件。そのうち建設業は91件と最も多く、22年時から約2.7倍に増えた(資料3)。
以下は「人手不足倒産」の一例だ。ある地方建設会社で、プロジェクトが進行中に複数の中堅社員が退職してしまった。工期を守るために、専門会社に外注して何とか乗り切ったが、得られた収益は見込みに遠く及ばず。その後、人材確保に奔走したが成果を得られず、外注依存が高まった結果、資金繰りが苦しくなって倒産に至った。
(2024/5/7 日経XTECH)