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拡幅された道が、また元の狭さに…「地権者次第なの?」住民は困惑

 「20年前に拡幅された道が、元の狭さに戻りそうだ」。そんな投稿が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた。地域住民が暮らしやすくするため地権者が自主的に敷地を後退(セットバック)させ、道路として提供していた。だが新たな地権者はその土地を含めて再開発しようとしているという…。 【画像】拡幅されていた道が、元に戻るイメージ図  福岡市内の住宅街。幅2・9メートルで車も通れた道に昨年末、フェンスが設けられ1・8メートルに狭まった。  この差、1・1メートル分(長さ約30メートル)は民有地。住民などによると、これまで所有していた大手運送会社が20年前に自主的にセットバックしたが、新たに所有者となった地元大手企業が元に戻した。マンションを建設する計画という。企業が購入したのは2019年。「あな特」に情報が寄せられたのは昨年末だった。

   ■    ■  建築基準法は道幅4メートル以上を「道路」と規定し、建物の敷地は最低1カ所、少なくとも2メートルはこうした道路に接していることを義務付ける。「接道義務」と呼ばれる。防火や避難路の確保が目的だ。  今回のマンション建設地は、フェンスができた敷地西側の道以外にも、南と北側が道路に2メートル以上接している。接道義務は果たしており、西側でセットバックする必要はない。  一方で建築基準法は道幅4メートル未満を「みなし道路」と位置付け、建物を建て替える際にはセットバックを義務としている。法が施行された1950年当時に住宅地だったエリアが対象で、塀や建物を設ける場合、道路中央から左右にそれぞれ2メートル確保しなければならない。セットバックした土地を自治体に寄付すれば、自治体が道路として整備したり、地権者の門や樹木の移設を助成したりする。  今回のエリアは住宅地ではなかったため、みなし道路には該当しない。マンション建設に当たって福岡市がセットバックを「要請」したが、所有する地元企業は「敷地でトラブルが発生すれば管理責任を問われかねない」と断っていた。

 取材中、状況が変わった。セットバックを望む地元自治会が市の仲介で交渉を求めたところ、地元企業が2月下旬に「できる範囲で行いたい」と方針を転換。同社担当者は取材に「住民の要望が強かったため」と話す。ただ、協定締結の動きはなく、企業は関連用地の寄付までは行わない見通し。将来、同じような問題が生じる可能性は残されたままだ。

拡幅後も進まない道路整備…各地で「逆戻り」する背景は

 セットバックで「みなし道路」を拡幅したものの、自治体に寄付せず民有地のままのため道路整備が進まず、せっかくのスペースが道として活用されていない-といった事態が散見されている。  東京都杉並区では拡幅されたスペースを、自動販売機や自転車の置き場として利用する例が後を絶たなかった。本来の狙いとは大きく異なり、2017年に条例を改正し、区は通行の支障になる物の設置を禁止、道路として活用できるよう担保した。  狭い道路の問題に詳しい首都圏総合計画研究所(東京)の井上隆会長は「狭い道路の対応策は、自治体の独自策に頼ってきた。拡幅が進まない一因は、後退部分の不安定な法的位置付けがある。みなし道路などでは、自治体が側溝も移動させるなどして『道路』として一体整備し、逆戻り(他の用途に活用)しにくくする必要がある」と話している。

セットバック、阪神大震災の教訓

 狭い道路が入り組む密集市街地の改善に国が取り組む背景には、1995年の阪神大震災の教訓がある。老朽化した木造建築が大量に倒壊し、火災も広がり多くの人命が失われた。  総務省の住宅・土地統計調査によると、幅4メートル未満の道路に接する住宅は、2018年のデータで1663万戸と全体の31%を占める。30年前の1988年の38%と比べ、改善は進んでいない。国土交通省国土技術政策総合研究所・都市計画研究室の勝又済室長は「敷地が狭くセットバックする余地がないなど、建て替え自体が進まないことが原因だろう」とし、打開策に建ぺい率の緩和などを挙げる。

(2022/3/25  西日本新聞