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空き家対策に「妙手」 相続財産管理制度 解体費回収、跡地利用も

制度を積極的に活用してきたのが福岡県宗像市。同市神湊にあった築約50年の木造2階建ては、所有者が1992年に亡くなり、空き家になった。外壁が落ち危険な状態だったため、地元自治会が市に対策を要望。市は相続放棄を確認した上で特定空き家に指定し、16年に略式代執行を実施した。

代執行後に課題となるのが、解体工事費などの回収と今後の土地の管理だ。略式代執行の場合、回収対象がおらず、土地も自治体のものではないからだ。

市は17年、福岡県と県司法書士会が結んだ空き家対策促進協定の実践第1号として、この物件について相続財産管理制度を活用することにした。

市は県司法書士会のリストを基に管理人候補者を家裁に推薦。予納金55万円を納付した。管理人に選ばれた森亜由美司法書士は跡地を売却しようとしたが、買い手探しに苦労したという。現在、ようやく売却先が見つかり、家裁の許可を得て手続きを進めている。

森さんは「司法書士は空き家以外にも財産管理制度を扱うケースが多いので、手続きは慣れている」と利点を説明する。県司法書士会によると、協定に基づいた事例は計3件に上る。森さんは「予納金の確保が自治体側はネックのようだ」と課題を指摘する。

宗像市は別の空き家でも制度を活用した。同市鐘崎の空き家は17年に略式代執行を実施後、管理人が土地を120万円で売却。管理人報酬などを差し引いた約67万円を回収することができ、予納金45万円は全額戻ってきたという。同市都市再生課の藤原久美子係長は「債権が回収され、跡地が次の住民に使ってもらえるのが制度のいいところ。手続きも煩雑ではない」と話す。

全国でも前橋市山口県宇部市などで相続財産管理制度を活用した空き家対策に取り組んでいる。総務省は他の自治体の参考にしてもらおうと、全国の事例集をまとめた。同省の担当者は「財産管理制度は空き家対策に有効なので、取り入れてほしい」と話している。

■住宅総数の13.6%占める 自治体は対応に苦慮

総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家数は2018年10月時点で約846万戸。住宅総数に占める割合は過去最高の13・6%に上った。九州は福岡12・7%▽佐賀14・3%▽長崎15・1%▽熊本13・6%▽大分16・7%▽宮崎15・3%▽鹿児島18・9%。福岡を除く6県で全国平均以上の水準となっている。

総務省が今年1月に公表した空き家対策に関する実態調査では、「相続人が多く、特定の事務負担が大きい」「担当する職員が足りない」「代執行の手順が分からない」などと回答。増加する空き家への対策が追い付かない自治体側の苦悩が浮き彫りになっている。

2015年の空き家対策特別措置法施行後の状況をまとめた国土交通省総務省の調査によると、撤去や活用を促す対策計画を策定済みの市区町村は全体の60・4%。九州では大分が100%なのに対し、熊本が33%、宮崎が42%など各県で差がある。

施行から今年3月末までに、倒壊などの恐れがあるとして市区町村が所有者に行った指導・助言は全国で1万5586件。撤去や修繕などの命令は111件。行政代執行による強制撤去は41件。所有者や相続人が分からなかった場合に実施する略式代執行は124件だった。

【ワードBOX】相続財産管理制度

財産の相続人がいなかった場合や全ての相続人が相続放棄した場合に、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が財産の処分などを行う制度。空き家対策の場合は、自治体が利害関係者として家裁に管理人の選任を申し立てる。管理人には司法書士や弁護士が選ばれることが多い。申し立て費用とは別に管理人報酬に充てる費用として予納金が必要となる。