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建築確認申請なぜ許可 広島市有地にアパートの一部建設、男性逮捕

 広島市の土地に無断でアパートの一部を建設したとして、西区の70代の会社役員男性が不動産侵奪の疑いで逮捕される事件が先月にあった。市は、周囲にある学校の安全が脅かされているなどとして民事訴訟も起こしているが、男性は争う姿勢だ。建物を建てるには、建築主が市に建築確認の申請をして、審査を受ける仕組みがあるのに、なぜこんな事態が起きるのか。経緯を検証する。

 ▽学校擁壁倒壊恐れ、土地所有者は検査対象外

 西区古江西町の住宅地。古田中の校庭ののり面を補強するコンクリート擁壁に接するように鉄筋3階建てのアパートが立つ。広島西署などによると、約84平方メートルの敷地のうち、庭などを含む約18平方メートルが市有地だ。市によると、市有地に埋設されたアパートの基礎部分が擁壁の基礎に接触しているため、放置すれば擁壁が倒壊し、中学校や周辺地域に重大な被害が及ぶ恐れがあるという。

 ▽建築中に発覚

 市教委施設課と男性によると、2004年に西区が男性の申請を受けて建築確認の審査をした。区は同年に建築を許可し、男性は地盤を安定させるための工事を始めた。13年には建築に着手し、区は翌14年に中間検査をし合格証を出した。

 審査はいずれも、建物の構造や設備が建築基準法の基準に合っているかを確認する手続き。土地所有者を記す登記簿謄本などを提出する義務はなく、敷地が市有地を含むことに気付かなかったという。区建築課は「あくまでも建物を検査する制度。土地の所有者は検査項目にもないため確認していなかった」と話す。

 敷地に市有地が含まれているのを市が知ったのは、16年10月。建物を建築中だった男性から「市の土地を売ってほしい」と申し入れがあったためという。市は工事の中止を求めたが、男性は聞き入れず、建物は同年12月に完成した。

 男性と市が掘削調査をすると、近隣に重大な被害が及ぶ可能性があることが17年末に判明した。市は男性にアパートの撤去と土地の明け渡しを求めたが、拒否されたため18年8月、土地の明け渡しを求める民事訴訟広島地裁に起こした。今年5月には広島西署に不動産侵奪容疑で告訴もした。

 市教委施設課は「擁壁の安全性に問題が生じている以上、土地を売ることはできない。撤去などを求めるしかなく、強制力を持つ司法の判断を待つ」とする。

 一方、男性は訴訟で争う姿勢を示し、6月3日に逮捕された後も、市有地に建てた過失を認めた上で「市の土地を奪うつもりはなかった」と供述。送検後に処分保留で釈放された。

 男性は中国新聞の取材に「敷地に市有地が含まれていることを知ったのは建物が完成に近づいた段階。建物の登記のため土地家屋調査士に調査してもらった際に分かり、市に相談した」と説明。「土木業者に頼んだ調査で中学校の擁壁の安全性は確認された。建物を壊すつもりも土地を明け渡すつもりもない」と話す。

 ▽独自ルールも

 土地の境界を巡る紛争は後を絶たない。全国には、独自のルールを設けて未然防止を図る自治体もある。

 岐阜市は、建築確認を申請する建築主に土地所有者が分かる書面の提出も求めており、他人や自治体の土地の無断使用が疑われる場合は、審査を止めて指導する。群馬県桐生市は土地の登記簿謄本や貸主の押印付きの土地使用承諾書の提出を求めている。同市建築指導課は「建物が完成してからでは解決が難しいため、着工前に確認する必要がある」とする。

 立教大大学院の松戸浩教授(行政法)は「建築確認は性善説に立つ制度で、今回のようなケースが起きる可能性は従前から言われていた。自治体は法に基づく建築確認審査とは別に、公有地の侵害が疑われる場合は、土地の所有権を確認する仕組みを設けるべきではないか」と指摘している。(松本輝、神田真臣)

 <クリック>不動産侵奪罪 刑法は、他人の不動産を侵奪した者に10年以下の懲役を科すと定める。最高裁判例によると、侵奪とは自己の所有物として利用する意思をもって不動産に対する他人の占有を排除し、自己または第三者の占有に移すことをいう。こうした行為が侵奪に当たるかどうかは、事案に応じ、不動産の種類、占有侵害の方法、態様、期間の長短、相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきだとしている。

(2019/7/30   中国新聞