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神戸市、全ての空き家に税制優遇を廃止へ 来年度から

 増加を続ける空き家対策として、神戸市は来年度から利活用の見込みがない全ての空き家について、固定資産税の税制優遇を順次廃止する方針を固めた。市への取材で分かった。一般的に、優遇措置を停止できるのは倒壊の危険があるなどの条件があった。税負担が増すことで、神戸市は所有者の早期の対応に期待する。空き家に伴う防犯・防災での課題に対応するとともに、土地や建物の利活用にも生かしたい考えだ。(石橋明日佳)

神戸市は空き家への税制優遇を廃止する

 国土交通省や神戸市によると、こうした対応は全国でも珍しい。市は9月から、所有者に税制優遇廃止などの通知を順次始めている。

 地方税法に基づき、家屋が建つ住宅用地には、固定資産税などが減免される「特例」がある。一方、家屋を解体すると特例の対象外となるため、そのまま放置されて空き家が増える一因とも指摘されていた。

 平成27年に施行された空き家対策特別措置法などによると、市区町村は放置すれば倒壊の恐れがあったり、景観を損なったりしている物件を「特定空き家」とし、所有者への助言・指導に加え、税制優遇の停止も認めている。特定空き家に関しては、市区町村に多大な業務の負担も生じる一方、倒壊、火災のほか犯罪も懸念され、対策強化が求められていた。

 神戸市は、特定空き家については特例の対象外としていたが、来年度以降、居住や利活用の見込みがない全ての空き家について特例から除外する方針を固めた。市によると面積などにもよるが、特例の廃止で、所有者は従来の3・5倍程度の固定資産税の支払いを求められることになる。

 神戸市は9月から、倒壊などのリスクが高い空き家の所有者から順次、特例除外の可能性について通知を行い、物件の修繕や居住の可能性について意思確認を進めている。

 市の担当者は「固定資産税が増額されることで所有者に行動を起こしていただけると考えた。通知をきっかけに、所有者と交渉を重ね、空き家の再利用や土地の利活用につなげていきたい」と述べた。

 30年時点で、神戸市内には約10万9千戸の空き家が存在する。中には7年の阪神大震災で被災したまま放置された家屋もあるという。

■「売りたくても売れない」

 空き家問題は過疎地域だけでなく、少子高齢化が進む都市部の市街地や住宅地でも深刻だ。

 総務省の平成30年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は848万9千戸。住宅総数に占める割合は13・6%に上り、これまでの調査で最多だった。

 空き家を放置する所有者にも事情があるようだ。全国から相談を受け付けるNPO法人「空家・空地管理センター」(埼玉)によると、維持費用だけでなく、居住地との距離や親族間の争いなども理由になりやすいという。

 空き家対策特別措置法に基づき、自治体は行政代執行で所有者に代わり撤去することも可能だ。ただ個人資産でもあり、空き家問題に詳しい近畿大の寺川政司准教授(都市計画学)は「対応をめぐって所有者との訴訟に発展するケースもある」と指摘。二の足を踏む自治体は珍しくない。

 寺川氏は「(空き家をめぐる)時代錯誤な法律や特例を見直す必要がある」と述べた上で、神戸市の新たな取り組みについて「一定の効果が得られると思う」と評価。「資産は複雑な権利関係をはらんでいる。市役所内で連携し解決する枠組みをつくってほしい」と述べた。

 空き家の撤去費を補助する自治体は多い。一方、家屋解体後の土地については、売却を希望しても買い手がいないといったケースもある。同センターの担当者はこうした課題を念頭に「空き家を何とかしたいと思っている所有者は多い。行政は空き家のデメリットだけでなく、対処した際のメリットも示し、行動を促してほしい」とした。
(2020/10/30 産経新聞