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知らぬ間に健康維持できる「家」、IoTを駆使して予防や早期発見に導く

愛知県豊明市にある豊明団地の一室。外から見ると普通の住宅であるが、室内にはセンサーやロボットなど一般家庭では見かけない様々な機器が設置されている(図1)。実はここ、豊明団地に隣接する藤田医科大学などが進めている実証実験の場「ロボティックスマートホーム」だ。疾患の予防や早期発見につなげたり、住人の生活を支援したりする要素技術の開発を目指す。

図1 藤田医科大学などが手掛ける「ロボティックスマートホーム」
図1 藤田医科大学などが手掛ける「ロボティックスマートホーム
疾患の予防や早期発見、リハビリに向けた生活支援の機能を付加した家の実現を目指す。健康データをモニタリングして環境の制御に利用したり、データを基に運動を促すなど健康的な生活習慣を定着させる施策にも利用したりする。(写真の出所:藤田医科大学、図:日経クロステックが作成)
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 数年前から、住宅設備や家電などをインターネットに接続し、AIスピーカースマートフォンなどから制御する「スマートハウス」の開発が活況だ。ただし、従来のスマートハウスは快適性や利便性の向上に主眼を置いてきた。今後、住宅は健康維持に重要な役割を果たす場所になると期待されており、スマートハウスに求められる役割も変化しつつある。IoT(Internet of Things)や非接触による測定技術などの発展で、その変化が現実的になってきた(図2)。

図2 家に期待される機能の変化
図2 家に期待される機能の変化
デジタル技術を導入した「スマートハウス」が登場している。これまでは快適性や利便性の向上に主眼が置かれていた。今後はそれらに加えて、健康維持の機能が重要視されていくと考えられている。(出所:日経クロステック)
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 「家には疾患の早期発見につなげたり、高齢者とその家族の生活を支援したりできるなど、様々な可能性があると考えている。今後は快適さに加えて、疾患の予防や早期発見、リハビリに向けた生活支援の機能が重要視されていくだろう」。そう話すのは藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座の主任教授である大高洋平氏だ。ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センターのセンター長も兼任し、冒頭で紹介したロボティックスマートホームの研究開発プロジェクトを率いている。

 「ロボティックスマートホームは、住人が気付かないうちに家が生活をサポートする、いわば『おせっかいな家』を目指している」(大高氏)。おせっかいな家の実現には、日常生活の中で効率的に健康データを収集する必要があり、そこでは住人が意識的に行動せずにモニタリングできる技術が求められる。

 ロボティックスマートホームでは例えば、イスに座っただけで生体情報を測定する技術や、ベッドに寝るだけで入眠や起床、睡眠の質を把握する技術を開発している。取得した日常生活のデータは、寝付きがよくなるように照明の明るさを自動で変えるなど、住人の健康維持に向けて住宅の環境を自動で制御するのに使う。ほかにも、データを基に運動を促すなど健康的な生活習慣を定着させる施策にも利用する。

 住人の生活を支援するロボットの活用も検討している。例えば小回りが利いて自宅でも使いやすい移動・移乗ロボットや、窓に設置したブラインドやカーテンの開閉などの操作を支援するロボットだ。高齢者などが治療のために入院したとしても、症状や障害が安定した後は自宅で過ごす時間が長くなる。低下した生活機能を補って本人の回復を促したり、ケアする家族を支援したりすることが期待できるという。

一般消費者も健康管理できる家に期待

 一般消費者も、住宅に対して健康関連のサービスを期待する傾向にある。20代~60代以上の消費者を対象として2017年に国土交通省が実施した「IoT技術等を活用した次世代住宅」に関するアンケートでは、住宅に対する機能として「健康管理」への関心が最も高かった。排せつ物の自動分析による疾患の早期発見のほか、健康上の課題に対応する献立レシピの提供、快適な環境による睡眠や目覚めのサポート、体重や血圧などのバイタルデータの自動測定などについて「利用してみたい」と回答する傾向にあった。

 住宅の中で健康に関わるデータを取得するメリットは2つある。1つは、健康維持や疾患予防に有効な住環境の制御に健康データを応用したり、医師と共有して医療機関での診療時に生かせたりすること。2つ目は、日常生活の中でデータを取得しやすいため、利用者にデバイスを装着するストレスをかけずに済むことだ。

 健康データを取得する技術としてウエアラブル端末が挙げられるが、端末を装着することに煩わしさを感じる人もいる。装着位置は限られ、充電状態にも気を使う。住宅の中であれば、人が利用する時間帯や行動をある程度予測できるため、住宅設備や機器などにセンサー類を組み込んでおけばよい。非接触によるデータ取得も選択肢に入る。例えば毎日使う鏡に生体情報を得る機能を付加することなどが考えられる。

(2022/10/31 日経XTECH)