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荒れ果てる寺 休眠の宗教法人、境内地を初の国有化へ

 宗教活動をしていないのに法人格だけが残る寺の境内地が、初めて国有化される見通しになった。宗教法人が解散するには土地や建物の処分が必要だが、過疎地を中心に引き取り手が見つかりにくい。休眠状態が続く「不活動宗教法人」は、他人の手に渡り脱税など不正に利用される恐れもある。法人の解散を促す解決策として、文化庁は国有化の事例を広めたい考えだ。

 文化庁全日本仏教会によると、文化庁が把握する不活動宗教法人は2018年時点で3528ある。税が優遇されることから、過去には反社会的勢力などが法人の代表役員につき脱税や資産隠しに悪用する問題も起きた。

 国有化される見通しなのは、島根県大田市にある浄土宗金皇寺(こんこうじ)の本堂や山林約12万平方メートル。浄土宗が清算人を立て、国庫帰属の手続きを財務省松江財務事務所(松江市)と進めている。年内には手続きを終えたいという。文化庁によると、手続きが済めば1951年の宗教法人法施行後初めて。

 浄土宗によると、寺は戦国時代の創建とされ、宗教法人法ができた2年後に法人登記された。数十年前から過疎化が進み、この寺の檀家(だんか)は約20軒。大阪で闘病していた住職が2013年に亡くなり、檀家らが寺の任意解散を決めた。

 浄土宗は、土地と建物の引き取り手を探したが、資産価値が低く転売できないうえ、土砂崩れや山火事が起きたときの管理責任を負えないことなどを理由に、県や市、地元の森林組合に断られ、解散できない状態が続いていた。

 浄土宗と全日本仏教会は2年前、文化庁財務省に相談。「処分されない財産は、国庫に帰属する」と定める宗教法人法50条3項に基づいて手続きを進めることにした。今年3月には宗教法人を所轄する県が解散を認証した。

 松江財務事務所からの指示で、国庫帰属には、境内にある墓石の整理や、放置しておくと近隣の住宅に危険な山門や鐘楼の解体が必要で、浄土宗が約100万円をかけて進めた。一方、老朽化した本堂などは奥まったところにあり、朽ちても近隣に影響が少ないことから、そのままの状態で国庫帰属されるという。

 文化庁宗務課の香取雄太専門官は「宗教法人の土地や建物を国が引き受けるのは初めてで画期的なこと。今回の事案をモデルケースにして、解散できないままの不活動宗教法人の解決策として広めたい」と話す。

(2020/11/27 朝日新聞