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バブル期「夢の街」朽ちる空き家 住民、再生へ立ち上がる

 家の外壁を緑の草が覆い、廃屋のようになった空き家があちこちに見える。京都府亀岡市畑野町を歩きながら、池田洋二さん(72)は移住した約15年前を懐かしむ。「かつては子どもの声が明るく響いていた。このままでは地域が消滅してしまう」

 大阪府境の山間部にある同町はバブル期、大規模な宅地開発が行われた。当時、都市部より安価なニュータウンは子育て世代にとって夢の街。そして、今。自家用車の運転が難しくなった住民が街を去り、地区人口は25年前の6割に減少した。あるじを失ったマイホームが朽ち果てつつある。
 池田さんが立ち上がったのは2017年秋。住民10人で地域再生グループ「緑会」を結成した。空き家所有者に連絡し、庭木の手入れや草刈りを代行する。「移住者を呼び込もうにも、この街並みでは来てくれない。行政に任せきりではだめだ」。昨年2月、空き家の危険物除去を市から請け負う「対空家ボランティア団体」の登録第1号となった。
 空き家問題は全国で深刻化する。景観悪化に加え、近年多発する災害で、空き家が隣接民家に被害を及ぼし始めた。国の18年度調査では府内家屋の約12%が空き家で、亀岡市は2310戸の空き家のうち、400戸は適正に管理されていないと推計する。南丹市は約700戸、京丹波町にも約400戸の空き家がある、という。
 亀岡市は、空き家に移住者を呼び込むことで、定住者増と空き家解消を図ろうとしている。16年10月、家を売却、賃貸したい所有者と希望者とを仲介する「空き家バンク」を始めた。ただ、バブル期のニュータウンが多い畑野町東別院町の登録物件13件のうち、移住に結びついたのは4件。市ふるさと創生課は「子育て世代の移住希望は多いが、田園風景が広がり、駅に近い場所に集中する。ニュータウンは案内しても敬遠される」。同じ市内であっても、移住者の人気は特定地域に偏っている。
 他市町村も定住促進にしのぎを削る中、移住者に選ばれるためには、空き家の質を保たねばならない。市は所有者に管理を呼び掛けるが、壁に直面する。持ち主が見つからないのだ。戸籍資料を調べても消息不明で連絡が取れない物件も多く、相続人が30人以上いたケースもあった。
 特にニュータウンは都市出身者が多い。行政でも探し出すのは至難の業だ。そこで、住民自ら動き出した地域もある。
 バブル期の新興住宅が広がる畑野町広野2区。2018年の豪雨災害で、空き家の屋根の一部や庭木が飛ばされ、空き地に不法投棄された家電製品も見つかった。住民たちは都市部のごみ捨て場になる危機感を共有した。
 それからは、空き家を訪れた人を見つけると急いで駆け寄る。所有者の連絡先を聞きつけ、隣の家や道路にはみ出しそうな樹木の伐採を始めた。永井雅次区長(66)は道路脇の草木を切りながら、こう打ち明けた。
 「自分たちの地域は自分たちで守る。この言葉の重さを今、痛感している」

(2020/1/10 京都新聞