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土地、一部所有者で売却可能に 所有者不明地で対策

国土交通省法務省は所有者の全容が分からない土地について、一部の所有者によって売却や賃貸ができる仕組みをつくる。所有者の所在が分からない「所有者不明土地」を対象とする。売却などの手続きを柔軟にすることで企業や近隣の住民が土地を取得しやすくし、九州本島の面積に相当するとされる所有者不明の土地の活用を進める。

土地の売買は所有者全員の承諾をもとに進めることが民法で定められている。例えば土地の所有者だった父が亡くなり、母と2人の子どもに相続した場合、現状では3人全員が認めない限り売却はできない。一方で自分の持ち分だけであれば売却が可能だが、土地の一部にとどまるため買い手が付きづらいという事情がある。

相続時に登記の変更を忘れるなどの理由で、所有者がどこにいるか分からない土地は全国に広がっている。所有者不明土地問題研究会によると16年時点で九州本島に相当する。相続の末に約700人の共有となった土地で一部の所有者の所在が分からず、公共事業が滞るといった事例がある。

国交省法務省は所有者が見つからない土地の活用を進めるため、住所や連絡先が分かる一部の所有者によって、土地の売却や賃貸ができる仕組みをつくる。20年の通常国会に関連法改正案の提出を目指す。

売却の場合は共有者が不明所有者の持ち分について金銭を法務局に供託することで土地を取得し、共有関係を解消できるようにする。土地の賃貸や盛り土などの整備については、不明となっている人以外の残りの所有者の承諾で可能にする。

手続きにあたっては登記簿や固定資産課税台帳などの調査や行政機関、親族らへの聞き取りといった不明者を突き止めるための探索をすることを条件とする。他の所有者が異議を申し立てることができるように、公告をすることも前提だ。

18年に成立した所有者不明土地法では所有者が分からない土地について、登記事項証明書の交付請求や親族、行政機関への情報提供の要請といった調査をしても所有者を確定できなかった土地と定義した。この定義に基づくような調査をしても所有者が見つからない土地は、新たな仕組みで売却や賃貸ができる可能性が出てくる。

所有者不明の土地は地方の山林が多いが、宅地も少なくない。国交省によると、土地の境界を調べる「地籍調査」で17年度に対象となった都市部の約8万カ所のうち、16%は登記簿では所有者の所在が確認できなかった。

所有者が分からない土地の活用は、公園や広場といった公共施設にほぼ限られている。例えば庭を広げるために近隣の土地を買ったり、マンション開発のために土地を購入しようとしたりしても、所有者全員を見つけるために膨大な時間と労力がかかるためだ。

国交省法務省は実現に向けて必要となる不明所有者の調査の範囲などを細かく定める。手続きに入ることは公告するが、一般の人にはなじみが薄く、周知には課題が残る。

国交省は危険物の放置や悪臭など周辺に悪影響が及びかねない場合は土地所有者の所有権を制限し、危険物を除去しやすくする制度改正も予定している。売却手続きを柔軟にする方針と合わせて、所有者不明土地の課題に取り組む。

(2019/11/18 日本経済新聞 電子版)