WOODY調査士の情報通

登記・測量、住宅、不動産の情報をかき集めています。

新型コロナで工事を中断すべきか?知っておきたい工事続行の法的リスク

建設現場で新型コロナウイルス患者が発生、工事が中断するという事態が現実となっている。国土交通省は2020年4月8日付で「適切な措置を講じること」とする通知を出したが、民間工事を止めるのはそう簡単なことではない。建築・住宅分野を専門とする匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士の寄稿として、コロナ禍による事業リスク要素を整理した。

  コロナウイルス感染症発生リスクを避けるべく、工事中断に踏み切る建設会社が出てきました。その一方、発注者に迷惑が掛かる、工期延長に伴って増大した販管費が建設会社側の損失となってしまうなどの理由から、「工事は止められない」と考えている方々も多くいると思います。

 「工事を止めるべきか」という法律相談を受け、私がアドバイスしているポイントは3つあります。

 第1に、新型インフルエンザ等対策特別措置法改正法(以下、特措法)の観点です。特措法4条は「事業者及び国民は、新型インフルエンザ等の予防に努めるとともに、新型インフルエンザ等対策に協力するよう努めなければならない」とし、予防と対策について努力義務を課しています。また特措法4条2項は疫病まん延により生ずる影響を考慮して、「事業の実施に関し、適切な措置」を講ずる努力義務を事業者に課しています。

 次いで、従来から存在する法的義務の観点です。建設会社は従業員、下請け事業者、顧客などに対する安全対策を講じなければならない義務を負っています(労働契約法5条または民法415条に基づく安全配慮義務)。

 最後にリスク管理の観点です。建築現場で感染爆発(クラスター)が発生した場合に何が起こるか、リスクを想定しておかなければなりません。本稿では、建設現場でクラスターが発生する可能性も考慮した上で、工事中止をすべきか否かについて分析と検討を進めていきます。

報告義務を示した国土交通省通知

 国土交通省は4月8日付で、土地・建設産業局建設業課長名で新型コロナウイルスに関する対応方法について通知を出しています。

 この文書には、「施工中の工事等について、新型コロナウイルス感染症の感染者及び濃厚接触者があることが判明した場合はもとより、速やかに受注者から発注者に報告するなど、所要の連絡体制の構築を図ること。都道府県等の保健所等の指導に従い、感染者本人や濃厚接触者の自宅待機をはじめ、適切な措置が講じること」との記載があります。

 この文書からも、感染者が見つかった場合、建設会社にはまず、発注者への報告義務があるということが確認できます。

 
国土交通省の4月8日付通知。公共工事における対策として、工事の一時中止や適正な工期の再設定と、それに伴う請負代金の見直しなどを図るよう求めている。

 民間工事において、こうした報告義務が特に重要なものには、商業施設内のテナント改装現場が挙げられます。工事関係者が感染した場合、管理会社を通じるなどで他のテナントにも状況を正しく、速やかに情報提供する必要があるでしょう。

 仮に情報提供が遅れ、他のテナントの従業員や利用者へ新型コロナウイルスの感染が広がった場合、事業リスクは特に大きくなります。

 まず建物所有者は、他のテナントから民法717条に基づく土地工作物責任(工作物保存の瑕疵)を追及されるリスクがあります。この賠償責任を負った所有者から、当該建設会社に対して損害賠償請求がなされるリスクがあるのです。やむなく施設全体をクローズした場合、所有者には休業期間中の賃料損害が発生しますので、その賠償責任をも負う可能性があります。

 工事関係者が利用者に接近する可能性がある工事には、マンションの改修工事もあります。エレベーターや通路などを共用せざるを得ず、接触機会があるためです。工事関係者以外に住民が感染する可能性もあります。工事関係者側に感染者が発生した場合、この事実は当該マンションの管理組合に告知しなければならないでしょう。この場合、工事は中断となり、保健所の指導に従って対応を採らねばならず、ここにコストが発生する可能性もあります。

(2020/5/7 日経アーキテクチャー)