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所有者不明の空き家問題、マンションでも深刻に 管理組合の負担重く

政府が対策に乗り出した所有者不明の不動産問題は、分譲マンションでも深刻になってきた。管理費などを徴収できず、区分所有法に基づくマンション管理が難しいケースが出ている。今後老朽化マンションが増えれば相続を放棄される部屋が増える可能性も高い。新たなルール整備を求める声もあり、東京都は独自に条例制定の検討に入った。(田中浩司)

マンション管理にこんな影響が出る

 「管理費や修繕積立金はどうするんだ」

 2018年1月、埼玉県内のマンションの管理組合が開いた臨時総会。理事長の説明に出席者の多くは衝撃を隠しきれなかった。24戸のうち3戸の区分所有者の氏名と住所を特定できないという内容だったからだ。

 空き室のままで管理費などの滞納が続いていた。支払期日から5年近く経過し、支払請求権の消滅時効も迫っていたことから、管理組合は家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任を申し立てる決議をした。ただ同管理人に部屋を売却してもらっても、滞納分に見合う売却代金を得られるかは不透明だ。

 分譲マンションは共同住宅という性質上、所有者不明問題は一戸建てより複雑な影響を及ぼす。管理組合の運営には区分所有法の規定が適用される。管理費などが徴収できなくなるほか、管理が行き届かない部屋は周囲の住環境を悪化させる。

 さらに管理組合の意思決定の足かせになりかねないのも課題だ。通常の事項の決議には、区分所有者と専有面積に応じて所有者が持つ議決権のそれぞれ過半数の賛成が必要。特別決議事項である規約の変更・廃止などは同4分の3、建て替えは同5分の4の賛成が必要になる。

全国で築30年以上のマンションは今後20年で3倍になる見込みだ

 建て替えるのでなくマンションを解体する場合は区分所有法に規定がない。そのため民法の規定に従い区分所有者全員の合意が必要となる。区分所有者がはっきりしなければ重大事項を決められないリスクが増す。

 国土交通省が16、17年にマンション管理組合を対象に実施した調査によると、回答した639組合のうち、連絡がつかない所有者らが存在するのは87組合(14%)に達した。87組合のうち築30年以上40年未満が24%、築40年以上のマンションが29%を占める。

 所有者が分からなくなるのは「相続に伴って区分所有権の移転登記がされないのが一因」(旭化成不動産レジデンスの大木祐悟主任研究員)だ。

 「居住者の高齢化が進んでいるのが心配だ」。東京都内の築50年強のマンションの管理組合の理事はこう打ち明ける。所有者が死亡し管理費の滞納が続いた部屋があった。弁護士に依頼して相続人を見付け回収したが、多大な労力やコストがかかった。理事は「同じ問題が続けば対応できない」と危惧する。

 さらに相続そのものがされないケースも広がっている。埼玉県の別のマンションでは管理組合が突き止めた区分所有者(死亡)の子が相続を放棄した。管理組合はさらに手間をかけて、物件の競売手続きを迫られた。

 老朽化で資産価値が下がり、管理費も滞納しているマンションは相続する魅力に乏しい。富士通総研の米山秀隆主席研究員は「将来は市場価値の下がったマンションの多くが相続放棄されてしまうだろう」と予測する。

 17年時点で180万戸超の分譲マンションがある東京都は18年3月に「マンションの適正管理促進に関する検討会」を設置した。検討会では管理組合に管理状況を5年ごとに行政に届け出てもらう制度の創設や、分譲会社などの事業者に対して管理組合の管理のしやすさに配慮した物件供給に努めるよう求めることなどを議論中だ。

 都マンション課は「事業者に引き渡し時に長期修繕制度の情報をさらに詳しく示させたり、販売後も管理に必要な支援を充実させたりすることなどが議論のテーマになりうる」と説明する。

 検討会に参加する不動産協会(分譲会社などが加盟)は「マンション管理を充実し、資産価値を保つ取り組みは、所有者不明物件の増加を防ぐうえで大切だ」と話す。検討会は11月をめどに報告書をまとめる予定で、都はそれを踏まえて条例化を検討する。

 不動産法制に詳しい吉田修平弁護士は「マンション住人の自治を前提とした区分所有法は実態に合わなくなっている」と指摘。「区分所有法の見直しや新たなルールも幅広く議論していかなければならないのではないか」と語る。
(2018/8/5 日本経済新聞